みなさん動作法をご存じですか?

私は、はじめてこの言葉を聞いたときに、お茶やお花の「作法」のイメージにつながってしまいました。きっと、多くの方には馴染みはありませんね。

動作法は、我が国オリジナルの心理療法です。始まりは催眠研究にあります。日本の催眠研究の第一人者である九州大学(当時)の成瀬悟策先生らが行った脳性麻痺の青年の手や腕が、催眠暗示で動いたという報告に始まっています。

こう説明されるとなんとなく「怪しい・・・」と思われがちですが、実際に催眠暗示により、これまで挙がらなかった腕が少しずつ動いていく実験の様子が記録された8mmフィルムの映像を見たことがあります。「脳性麻痺が治るのか!」と誤解されそうですが、あくまでも催眠状態での様子であり、また明らかに麻痺がなくなった状態が映っていたわけではありません。動作法により、日常的に「麻痺が治った」と言う、劇的な改善を示したものではなかったので、このあたりは誤ったメッセージを送らないようにしなければなりません。ただ、これらを詳細に説明するとなるとおそらく、ブログなどではとても足りません。いずれにしても、大発見であったことは確かです。興味がある方は、専門書が多数出ているのでそれをお読みいただく方がよいでしょう。

この動作法ですが、今日では、脳性麻痺のある方への動作改善へのアプローチに留まらず、発達障害のある子ども達や、スポーツ選手、高齢者などへも応用され、臨床動作法として多くの心理臨床の現場で使われています。また阪神淡路大震災や東日本大震災の際にも、心のケアに使われてきました。

さて、かくいう私も、動作法との出会いは、応用行動分析学との出会いよりも遡ります。自閉症スペクトラム障害のある子ども達に「腕上げ動作法」をしたことが始まりです。社会人になった後も、毎週末の土曜日は、動作法の研究会に参加していました。当時は既に応用行動分析学についても学んでいましたが、インテーク時などでは、動作法から入ることはよくありました。

その動作法に「とけあい動作法」と言うものがあります。これは文教大学の今野義孝先生により開発されたアプローチです。今野先生は、私をこの業界に導いてくれた恩師でもあります。私が学生の時、ちょうど今野先生は「とけあい動作法」についてあれこれと試行錯誤しているまっただ中でした。おかげで、このアプローチについて、白熱した議論をしている先生の様子を近くで拝見しましたし、時には学生とも熱心に議論されることもよくありました。また、研究のお手伝いのようなこともさせていただきました。

ただはずかしいことに、当時の私は明らかに勉強不足でしたので、「動作法」についても、また「とけあい動作法」についても、理論と実際のアプローチの様子がどうにも繋がらず、いつも半信半疑でした。

首をひねって「わからん」と言うそぶりを見せようものなら、「ありちゃん、じゃ、体験してみましょう」と直接手ほどきを受けることがしょっちゅうでした(といっても、ひたすら「とけあい動作法」を体験するのですが・・・)。

私がこのアプローチについて、「わかった」のはそんなこんなのやり取りが一年ほど続いてからのことです。

その瞬間は鮮明に覚えているのですが、「体験」と「観念」がようやく繋がった感覚でした。まさに、自分が「わかった」と言う感覚でした。

今振り返ると、私自身、小さい頃から「体」と「心」のつながりというのが希薄だったのではないかと思います。なので、昔から身体がボロボロになるまで、とことんやってしまい、その後電池が切れたようにパタッと動かなくなるような感じでした。

今は、「疲れた」という感覚が実感できるのでそこまで行くことはなくなりましたが、これも動作法を通じて身体への気づきが促された事によるものではないかと思います。

そういう意味では、動作法を通じて自己を見つめ、他者に気づくことを学んできたように思います。

さて、今回のボイスジャーナルは、この「とけあい動作法」を多くの人に実践してもらうためにどのようなプログラムを提供すればよいか、あれこれ話をしています。

私も以前から「とけあい動作法」を、ペアレントトレーニングの中に組み込めないかと考えていたのですが、学生も虐待の予防の観点から、もっと普及していく必要があるのではないかと考えていました。残念ながら、この研究に参加してもらえる親御さんが見つからず(かなり実験的要素が強いので)、まずは成人(学生)の参加者に実践してプログラムの有効性から検討してみることになりました。

(このブログ自体は1年前に書いたものです。一昨年度に録音しておいたものをアップしています。なお、この研究の続きは、この春卒業した学生が発達障害のある就学前の親子で実際に成果を上げています。その研究はこちら。)

研究を通して、改めて動作法の奥深さを知ると共に、学生の頃にあれこれ考えていたことを、また自分の教え子と考えていることがなんとも面白くもありました。

 

本研究が掲載されている紀要は以下になります。

石崎 萌子「とけあい動作法」による愛着促進プログラムの開発 ―大学生を対象としたプログラムの妥当性の検討―  」