ボイスジャーナルでは、ABA研修で学んだ受講者が、実際に施設全体の取り組みについて話しています。
連続研修の受講者は、施設に戻ると他の職員とデータに基づき行動を分析しました。すると、利用者さんの行動は、特定の職員の注目、関心をひくため出現していることがわかりました。
そこで施設内での戦略として「消去」手続きを行うことになりまた。
「消去」手続とは、当該の行動を起こすと、その直後に提供していた人の注目や、モノ、活動を、一切提供しないようにする手続きです。行動を起こしている当事者からすれば、当該の行動をしても、人の注目やモノ、活動が得られないわけですから、その行動の本来の目的は達成されません。したがって徐々に当該の行動は減少していくわけです。
しかし「消去」手続き開始間もなくのデータをみせてもらったところ、不適切行動は著しく増加していました。このような現象を「消去バースト」と言います。これはある程度予測できたことです。実際、この点については、研修の中でも特に丁寧に話をしたところです。
「消去バースト」とは、これまでは当該の行動を起こすと、「周囲の注目」や、「モノや活動」が得られていたのですが、それが急に得られなくなるわけです。そのため、行動を起こしている当事者としては「そんなはずはないやろ・・・」と、目的である注目やモノ、活動が得られるまで頻繁に当該の行動を起こすようになるのです。つまり、問題が悪化した状態になるわけです。しかし、これはこの手続きを行えば比較的よくみられる現象です。これを知っているかどうかで、そのあとの対応が随分と変わってしまいます。
さて、この問題が悪化している最中に、「周囲の注目」や、「モノや活動」が得られたら、その後、この行動はどうなっていくと思いますか?
おそらく、「なんや、ここまでやらな、手に入らんのか」と考えるようになるわけです。つまり、次からはさらに悪化した行動を起こすようになっていくわけですね。これが行動上の問題が悪化していくメカニズムです。なので、一端、消去手続をとると決めたならば、中途半端なところで妥協し「しょうがないな、今回だけですよ」という対応はいけません。目的が達成されれば、その行動はいつまでも続けます。やるなら、一貫した対応を根気強く続けていくしかありません。
でも、考えてみてください。通常、私たちは不適切な行動を目の前にして、それをだまって見過ごしたり、放っておくことはできません。それが本人にとって、周囲にとって危害が加わるようなことであれば、まず間違いなく、「消去」手続きの中断に至ってしまいます。これは当たり前のことですが、結果的に行動の低減や消失には至りませんし、悪化を招きます。なので、こうしたリスクが伴う場合にはとるべきではない手続きであると私は考えています。
結構、この現象を知らず、「注目行動だから、無視しときなさい」と簡単に言う人がいます。これはとても危険なアドバイスです。こうした対応と行動の関係については、正しい知識を持つべきですし、この手続きをとるべきかどうかについては慎重になるべきなのです。決して簡単な手続きではありません。
なので、単発ものの講演のように、十分にこのあたりの話ができない時、私は「消去手続」を推奨する話はしません(連続研修では、リスクも含め、丁寧に話します。なので、有効性についても話します)。
この施設では、「消去」手続きについての事前の確認は徹底していましたし、「消去バースト」の知識についても共有されていました。さらに、望ましい行動が生起している時には、職員は積極的に褒め、素敵な行動に対して注目することも合わせて徹底していました。
ここが、実はとても重要なところなのです。
ただ「なくす」「減らす」ではなく、本人にとっても、周囲にとっても望ましい行動に「代える」「質を高める」という、もう一つのミッションがあることを、私たちは絶対に忘れてはいけないのです。
ボイスジャーナル収録日は、まだ「消去バースト」が起きていた頃のデータしか確認していなかったのですが、最近見せてもらったデータではなんと見事に不適切な行動は減少に転じていました。一方で、文字を書いたり、洗濯物を干したりするなど、これまで見られなかった行動がどんどんと増えていきました。なにより笑顔が増えていったとのことです。
施設職員が行った分析と、施設全体が一丸となって対応を徹底したこと、少しでも生活の質を高めたいと言う願いが勝ったのですね。
対談 北野裕貴×有川宏幸「強度行動障害があってもハッピー施設を目指す! 生活向上編」
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